ITO Thailand Hygiene Blog
物理的危害のリスク予防・低減
前回は、食品産業でよく見られる物理的危害についてお話ししました。今回は、物理的危害のリスク低減のためのテクニックや方法を危害の発生源別にご紹介していきます。
1.原材料の管理
原材料による汚染は、完成品の中に見られる恐れの高いものとなります。というのは、食品に最初から含まれているものによる汚染だからです。したがって、事業者は、食品製造に用いる原材料の良質な産地、製造・栽培・収穫基準等を規定しなければなりません。これについては、農業生産工程管理(GAP)等の証明書を求めたり、チェックリストや品質証明書を作成したりしても良いですし、原材料生産現場を立ち入り検査し、原材料の許容可能な汚染量を適正に定めることも可能です[1]。
原材料が製造場所に運搬されたら、所定の基準に基づく受入検査を行います。原材料は、完成品を汚染することのない、外部環境による汚染を予防できる専用の保管エリアに保管するべきです。原材料を使用する時は、袋の切り方や移動時の袋・札・容器の破片の検査等、原材料の梱包容器による汚染予防の方針がなければなりません。また、原材料の管理は適正衛生規範に従う必要があります。さらに、果物の種抜き、食肉の骨の切り分け、海産物の殻剥き、ナッツの殻剥きなど、原材料から硬い物を除去する際には注意して下さい。物理的汚染のリスクが高い製品の場合は、物理的危害排除の工程を追加して検討しなければならないこともあります(続きは第4項)。
2.従業員の管理
食品製造工程内の従業員からの汚染予防としては、望ましくない物の製造エリアへの持ち込みの予防方針を規定すること(ペンのキャップ、付け爪、ボタンのある服、装飾品、外部からの食品・飲料など)ができますが、これは厳格に適用される様々なルールによって行うことができます。また、従業員の服装検査をしても良いですし、加えて、髪を覆う帽子、マスク、エプロン、スモック、靴、私物をしまっておくロッカー、靴置き場、目立つ色付きの絆創膏、絆創膏の上にはめる手袋など、適宜、現場に合ったリスク低減のための備品を従業員の数に対して十分に調達し、従業員が適正に作業できるよう便宜を図ることもできます。さらに、埃や髪の毛を取る粘着ローラーや掃除機、エアシャワー(など、汚染予防のための手順を加えることもできますし、従業員が食品安全の重要性について意識するよう研修し、組織に食品安全への理解や意識、文化を構築することもできます。その他、従業員からの汚染リスクを低減してくれる新技術を検討することも可能です(続きは第5項)。
3.備品・工具・機械の管理
備品・工具・機械は、衛生的に設計し、食品を汚染する恐れのある部品は最小限にしなければなりません。たとえば、破損しやすいガラス類の使用を避ける、備品や機械の状態検査の方策を規定する、破損や汚染発生リスクの発見時の対応策を規定する、使用可能な状態を維持するための備品の定期保守スケジュールを規定する等となります。付属品に金属がある備品や機械については、金属との接触時に破損して食品を汚染する恐れがあります[2]。これについての安全のための検査には、マグネットや金属検知器を使用することが可能です。
4.環境の管理
食品製造場所は、清潔でなければなりません。また、使用する資材は汚れが蓄積しないようにし、破損して製品中に落下することのないよう適切なものとしなければなりません。清掃・消毒がしやすいような設計とし、壁は表面が滑らかで塗料が剥がれていないように、天井は清潔で錆や蜘蛛の巣、埃、食品への汚染の恐れのある資材がないようにします[1]。床は完全な状態で、タイルが割れたり剥がれたりしておらず、汚染の恐れのある石や土が付着していないようにします。これらについては、常に良好な状態を保てるよう、修理・保守スケジュールを定めても良いです。また、建物の資材だけでなく、他の環境も物理的汚染の発生源となる可能性がありますので、適正な管理が必要となります。たとえば、有害生物の管理、ゴミの管理、水及び廃棄物の管理、樹木、蛍光灯や電球などです。さらに、エアカーテンや高速シートシャッターを設置するなど、食品製造エリアの出入口で外部からの汚染リスク低減を検討することもできます。このようにして、外部環境からの汚染リスクを低減します。
5.物理的危害のリスクを予防・低減するプロセス及びテクノロジーの導入
汚染リスクのある食品製造工程においては、危害を排除したり物理的汚染のリスクを低減したりするための追加プロセスを検討しなければならないこともあります。そのためのテクノロジーには、たとえば以下のようなものがあります。
>寸法、重量、又は密度の相違を利用した分別により、原材料又は製品から異物を除去。たとえば、濾過、ふるい分け、食品原材料から木屑や石を除去する、エアブロー、水や洗浄液に浸ける等となります。
>マグネットや金属検知器を使用し、製品を汚染する恐れのある金属を除去。この場合、プラスチックや骨片、ガラス片など金属成分のない汚染物質は、金属検知器やマグネットでは検知できないということを考慮しておかなければなりません。また、製品中の塩分及びイオン濃度、温度、食品の構造、包装容器など、他の様々な要因も金属検知の精度に影響を及ぼします[3]。
>電波・電磁波及び光線
よく用いられる電波・電磁波及び光線には、X線、マイクロ波、超音波、核磁気共鳴(Nuclear magnetic resonance : NMR)などがありますが、骨片やプラスチック片、ガラス片といった製品中の金属以外の汚染を測定するのに多く使われます。使用例としては、食品産業における鳥肉の骨片汚染の検査や、穀物・豆・果物中の虫の検査にX線を使用する等となります[4]。
>AIシステム
AIシステムは現在、他の検知ツール(金属検知器、電波・電磁波及び光線による装置等)と併用するなどして、製品と異物との違いを学習させ、物理的汚染を含む汚染の低減に役割を果たすようになっています。たとえばAI Vision systemは、カメラと併用すれば、食品の色や形状の異常、従業員の服装検査、従業員の手洗いの監視等、従業員による観察の必要なく汚染を探知することができます(AI Vision systemについての詳細はこちら)。
References
1.Simons. nd. HOW TO CONTROL PHYSICAL HAZARDS. Online: https://cwsimons.com/how-to-control-physical-hazards/
2.USFDA. 2016.Hazard Analysis and Risk-Based Preventive Controls for Human Food: Draft Guidance for Industry. Online: https://www.fda.gov/files/food/published/Draft-Guidance-for-Industry–Hazard-Analysis-and-Risk-Based-Preventive-Controls-for-Human-Food—Potential-Hazards-Associated-with-the-Manufacturing–Processing–Packing–and-Holding-of-Human-Food-%28Chapter-3%29-Download.pdf
3.Food Safety Knowledge Centre. nd. Metal Detectors in the Food Industry. Online: https://www.gov.mb.ca/agriculture/food-safety/at-the-food-processor/food-safety-program/pubs/fs_9.pdf
4.Ronald P. Haff; Natsuko Toyofuku (2008). X-ray detection of defects and contaminants in the food industry. , 2(4), 262–273.
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