ITO Thailand Hygiene Blog
バイオプラスチック
近年、プラスチック廃棄物のうちリサイクルされているのはわずか9%、また22%は誤処理がなされており(OECD, 2022)、こうした数字は、世界中の研究者の間で懸念を呼んでいます。新型コロナの大流行により、安全性の観点から食品包装材の増加が加速する中、メーカーにとっては、PLAバイオプラスチック製の包装材など、環境に優しい代替品への切り替えが重要となっています。本ブログでは、PLA素材の紹介、食品産業における潜在的な可能性、利点、欠点、安全性の問題、およびサステナビリティについて考察していきます。
PLAとは?
ポリ乳酸(PLA)は、トウモロコシ、キャッサバ、メイズなどの植物を原料とする生分解性ポリエステルまたは熱可塑性プラスチックで、生物医学 (Casalini 他2019)、農業 (Auras 他 2010)、食品包装 (BioPak, 2019) など多くの産業で利用され、 6~12カ月で分解されることが分かっています。PLAは、従来のプラスチックと比較した場合、生産に使用するエネルギーは65%、温室効果ガスの排出は68%少なく、毒素も検出されていないことから、「グリーン」な素材と考えられていますが (TWI, 2022) 、環境にやさしい素材であるにもかかわらず、常温ではほとんど劣化しないため、リサイクル、コンポスト、焼却、埋め立てなど、特定の廃棄手続きが必要となります。(TWI, 2022)
食品産業におけるビジネスチャンス
新型コロナの大流行によりPLAの需要が増加、幅広い用途で使用されることから、2022-2030年の間に26%の市場成長が見込まれていますが、食品産業で最も一般的な用途は、使い捨てのカトラリーや食品容器です。PLA製品は、耐油性、耐久性、印刷適性などの利点に加え、審美的にも優れていると考えられていますが (Grand View Research, 2022) 、柔軟性の向上やコスト削減のためにPETなど他の素材と組み合わせることが多いため、残念ながら環境にやさしくない素材になってしまっているのです。(ARC, n.d.)
利点、欠点と安全性の問題
先に述べたように、再生可能な原料を使用しているため、原料調達の手間が少なく、生産者は容易に生産スケジュールを維持することができます。次に、他の化石系プラスチックと比較して融点が低く、加工が容易なため、食品包装材や押出成形品の原料としてよく使用されています。(Barrett, 2020) また、生分解性なので環境への影響が少なく、有害物質が残留しないため、様々な種類の食品包装に安心して使用することができます。
しかし、食品産業で使用される他の種類のプラスチックよりも高価な上、完全に管理するためには適切なプロセスが必要なため、工業的な堆肥化作業が必要となり、無条件で堆肥化できるわけではありません(Krieger, 2019)。 PLAを海に廃棄して自然分解を期待することは不可能であり、適切な廃棄物管理システムが必要であることに変わりないのです。PLA素材は、食品包装、シュリンク包装、ペットボトルなどの日用品に含まれており、消費者は、特に食品接触材料として使用される場合、メーカーがPLAの安全性を確認できるかどうかを疑問視しています。一般的に、PLAは「一般に安全と認められている(GRAS)」そして、意図された用途に対しては安全である(Conn他、1995)わけですが、これは、食品用のPLAの安全性を確保するために使用される用語です。興味深いことに、PLAを3Dプリント材料に使用する場合、その安全性が損なわれる可能性があります。というのは、プリンタのホットエンドに食品用ではない他の残留物が混在するリスクがあるほか、ほとんどの3Dプリンタでは真鍮製ノズルから鉛が混入する可能性があるからです。そのため、洗浄が容易で、PTFEなどの材料の熱分解による毒性のリスクを回避できるステンレス製ノズルが、より望ましいとされています。 (Johnson-Hall, 2022)
PLAとサステナビリティ
先のブログでお話したように、サステナビリティは将来の世代への影響を決定するため、研究者はトウモロコシやメイズに代わるPLA製造用の植物源を見つけ出しています。タイでは、NatureWorks社(PLAメーカー)とABB社(オートメーション会社)の協力により、タイの豊富な植物、サトウキビからPLAを製造しており、(Holbrook, 2022) インジオ(PLAバイオポリマー)を年間75, 000トン生産、コーヒーカプセル、ティーバッグ、食品容器など、よりサスティナブルな食品包装のラインアップを作ることが期待されています。他の生分解性プラスチック(PHA、デンプン混合物など)とともに、2021年の生産能力150万トンから2026年には530万トンに達すると予測されています。(European Bioplastics, 2021) スペインでは、AIMPLAS社がアボカドの種からデンプンを抽出しバリアフィルムに、アボカドの皮と果肉を廃棄しPLAパッケージにすることで、食品の保存性を15%高めるとともに、酸素透過率(OTR)を下げ、酸化を防ぐことを可能にしています。(Nagal, 2021)
PLA包装は生分解性プラスチック生産に大きく貢献し、消費者にも複数の有用なアプリケーションを提供することが示されています。現時点では、条件付きで堆肥化が可能である、コストが高いといった知識のギャップから、プラスチック産業への利用が制限されるかもしれませんが、ITO Thailandは革新的な食品ソリューションをサポートし、PLAバイオプラスチックが、費用対効果の高い手順で無条件に堆肥化できるようになる日を心待ちにしています。
参考文献
ARC. (n.d.). Industry Report: The use of PLA for food packaging in Australia. University of Tasmania. Retrieved September 25, 2022, from https://www.utas.edu.au/__data/assets/pdf_file/0007/1361833/CFSI_program2_PLA-use-in-packaging-report.pdf
Auras, R., Lim, L. T., Selke, S. E. M., & Tsuji, H. (Eds.). (2010, September 15). Poly(Lactic Acid). Poly(Lactic Acid): Synthesis, Structures, Properties, Processing, and Applications. https://doi.org/10.1002/9780470649848
Barrett, A. (2020). Advantages and Disadvantages of PLA. Bioplastics News. Retrieved September 22, 2022, from https://bioplasticsnews.com/2020/06/09/polylactic-acid-pla-dis-advantages/
BioPak. (2019). What is PLA? Retrieved September 22, 2022, from https://www.biopak.com/au/resources/what-is-pla
Casalini, T., Rossi, F., Castrovinci, A., & Perale, G. (2019, October 11). A Perspective on Polylactic Acid-Based Polymers Use for Nanoparticles Synthesis and Applications. Frontiers in Bioengineering and Biotechnology, 7. https://doi.org/10.3389/fbioe.2019.00259
Conn, R., Kolstad, J., Borzelleca, J., Dixler, D., Filer, L., Ladu, B., & Pariza, M. (1995, April). Safety assessment of polylactide (PLA) for use as a food-contact polymer. Food and Chemical Toxicology, 33(4), 273–283. https://doi.org/10.1016/0278-6915(94)00145-e
European Bioplastics. (2021). BIOPLASTICS MARKET DEVELOPMENT UPDATE 2021. Retrieved September 26, 2022, from https://docs.european-bioplastics.org/publications/market_data/Report_Bioplastics_Market_Data_2021_short_version.pdf
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Holbrook, E. (2022). Thai Plant Will Convert Sugar Cane to Sustainable Plastics. Environment + Energy Leader. Retrieved September 25, 2022, from https://www.environmentalleader.com/2022/03/thai-plant-will-convert-sugar-cane-to-sustainable-plastics/
Johnson-Hall, E. (2022). Is PLA Food Safe? – The Truth. All3DP. Retrieved September 23, 2022, from https://all3dp.com/2/is-pla-food-safe-what-you-really-need-to-know/
Krieger, A. (2019). Are bioplastics really better for the environment? Read the fine print | Greenbiz. GreenBiz. Retrieved September 22, 2022, from https://www.greenbiz.com/article/are-bioplastics-really-better-environment-read-fine-print
Nagal, V. (2021). Extend the shelf life of food by 15% with new biodegradable packaging – AIMPLAS. Packaging GURUji. Retrieved September 26, 2022, from https://packagingguruji.com/extend-the-shelf-life-of-food-by-15-with-new-biodegradable-packaging-aimplas/
OECD. (2022). Plastic pollution is growing relentlessly as waste management and recycling fall short, says OECD. Retrieved September 22, 2022, from https://www.oecd.org/newsroom/plastic-pollution-is-growing-relentlessly-as-waste-management-and-recycling-fall-short.htm
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