ITO Thailand Hygiene Blog
食品産業界における多次元印刷(マルチ・ディメンショナル・プリンティング)
近年、3次元(3D)印刷技術は、コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェアを基にデザインを作成し、各層(レイヤー)毎の固着・積層を基に印刷する事で、食品加工業において複雑な形状と微細な構造の食品開発が可能になっており、実に多岐にわたって用いられています(17)。3D食品印刷は、印刷可能な洗練されたデザインを通して、付加価値のある製品と、より多くの顧客満足を生み出し、不可能を可能にして参りました。本稿ではこの多次元印刷(マルチ・ディメンショナル・プリンティング)について、市販製品と用途例、食品の安全性と品質への影響、メリットとデメリット、そして4D 5D 6D印刷の展望について述べていきます。
多次元印刷(マルチ・ディメンショナル・プリンティング)とは?
食品層状加工(FLM)として知られる3次元印刷(3DP)は、ロボット工学基盤の積層造形法(AM技術)を用いた新開発食品(ノベルフード)製造工程です(16)。その工程は流動性食品をピューレにし、押出成形法を用い、高分子ゲルネットワーク形成と望ましい質感の為に親水コロイドを追加するところから始まります(13)。3D印刷(3DP)は、コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェアから得た3Dデータを基に3D対象物の形状へと、従来はなかった「各層(レイヤー)毎」のパターンで、食品を個別に、また、カスタマイズして形成します。また、この技術は生産効率を高める事が証明されており、製造業者により好まれるようになり始めました(11)。最初の3D食品の試作品は、カスタマイズされた誕生日ケーキで、これは特許を取得して一般に公開されましたが、物理的には構築されていませんでした(12)。
製品化・用途例
チョコレートは、水分含有量がある流動的性質を備えているというそのものの特性に加え、溶解押出成形という3D印刷(3DP)技術にとって非常に適しており(7)、チョコレートバー、ナッツコーティング、またウエハース等、幾つかのラインナップ(4)のような高付加価値製品(5)の形成において、最も商業化され成功した3DP食品の1 つと言えます。
3D印刷(3DP)は、嚥下困難な食品や、咀嚼や嚥下が困難な方向けの食品(1)を、好ましい食感や低刺激のピューレ状仕様の魅力的な代替食品として提供するなど、一般的に用いられています。例えば、冷蔵や加熱などの様々な調理を行った後でも、食欲をそそる、カスタマイズされたより柔らかい食感の3D印刷(3DP)食品などがあります(8)。
食品の安全性と品質への影響
食品の安全性と品質は、あらゆる食品製法における性能・能力を決定するための常に重要な要素です。例えば、押出成形の加熱や印刷後の冷却工程中に発生する温度変動によって食品が細菌や真菌に侵されやすくなるため、微生物の安定性に影響を与える可能性があるなど、食品の安全性に関する問題は非常に多くあります(15)。更には、全ての食品接触面の衛生が必要で、例えば、リステリア菌、緑膿菌や大腸菌など、不適切な洗浄が食源生疾病の病原体によるバイオフィルム(菌膜)形成を引き起こす可能性があります(15)。
処理温度の変動に関わらず、適正製造基準と食品接触面の消毒が適切に行われている場合、感覚特性、抗酸化性質、また総フェノール含有量において重大な影響がなく、また微生物の腐敗による汚染の報告は一切ありません(10)。
メリットとデメリット
3D印刷(3DP)は、嚥下障害や特別な食事が必要な人など、個々人に合わせた栄養を提供する能力、複雑な形状や大きさにカスタマイズされた食品、食品廃棄物削減、及び、生産効率向上など多くのメリットがあります(15)。一方で、主なデメリットとして前述の食品の安全性に関する懸念があり(15)、また、3D印刷(3DP)はまだ複雑で使いにくい特定のCADソフトウェアが必要な為に、一般家庭での利用にはまだ困難があります(9)。加えて、印刷速度、押出率、印刷温度といった印刷パラメーターは、3D印刷(3DP)食品の品質保持のために最適条件に設定する必要がある非常に重要な要素です(6)。
4D/5D/6D印刷への展望
4Dバイオ印刷技術は、3Dのような静的構造に留まらない、経時的な色、形、栄養、風味の望ましい変化という「時空軸」(2)を加えることで、インタラクティブな食品をも製造できる、3Dを拡張した新しい食品加工法です(14)。また、4DP技術のメリットには、輸送価格や保管場所の削減の他、保存中に劣化する3DP食品と比較して、形状変化特性、風味、栄養、色あいの保持率による食体験の向上が挙げられます(14)。
5D印刷技術は、5軸からの印刷が可能で、3D印刷では実現出来ない回転や旋回などの非常に複雑なデザインを可能にし、より少ない材料でより強固な構造を実現します(3)。最後に、6D印刷技術は、4D印刷技術の先進的な経時的変化構造に加え、5D印刷技術が可能にする頑丈な素材構成の特性を組み合わせたものです(3)。5Dおよび6D印刷技術は、スマート食品を革新する可能性が非常に高く、しかしながら、まだ開発初期段階にあり、必要条件までの差を埋める為に更なる研究が必要です(3)。
前述の通り、3次元印刷(3DP)は、微生物の安定性、及び、食品の感覚特性維持が可能な為、食品産業で使用できます。更に、3次元印刷(3DP)は、高タンパク質や高繊維質の食品など、栄養価の高い配合を強化し、個々人の栄養要件に基づいて栄養食品の個別化がなされたとき、食料安全保障の問題を軽減できます。ITO Thailand は、持続可能な食品生産を提供する3次元印刷(3DP)のような革新的な食品加工技術をサポートしています。
References
1.Dick, A., Bhandari, B., Dong, X., & Prakash, S. (2020). Feasibility study of hydrocolloid incorporated 3D printed pork as dysphagia food. Food Hydrocolloids, 107, 105940. https://doi.org/10.1016/j.foodhyd.2020.105940
2.Gao, B., Yang, Q., Zhao, X., Jin, G., Ma, Y., & Xu, F. (2016). 4D Bioprinting for Biomedical Applications. Trends in Biotechnology, 34(9), 746–756. https://doi.org/10.1016/j.tibtech.2016.03.004
3.Ghazal, A. F., Zhang, M., Mujumdar, A. S., & Ghamry, M. (2022). Progress in 4D/5D/6D printing of foods: applications and R&D opportunities. Critical Reviews in Food Science and Nutrition, 1–24. https://doi.org/10.1080/10408398.2022.2045896
4.Lanaro, M., Desselle, M. R., & Woodruff, M. A. (2019). 3D Printing Chocolate. Fundamentals of 3D Food Printing and Applications, 151–173. https://doi.org/10.1016/b978-0-12-814564-7.00006-7
5.Lanaro, M., Forrestal, D. P., Scheurer, S., Slinger, D. J., Liao, S., Powell, S. K., & Woodruff, M. A. (2017). 3D printing complex chocolate objects: Platform design, optimization and evaluation. Journal of Food Engineering, 215, 13–22. https://doi.org/10.1016/j.jfoodeng.2017.06.029
6.Liu, L., & Ciftci, O. N. (2021). Effects of high oil compositions and printing parameters on food paste properties and printability in a 3D printing food processing model. Journal of Food Engineering, 288, 110135. https://doi.org/10.1016/j.jfoodeng.2020.110135
7.Liu, Z., Zhang, M., Bhandari, B., & Wang, Y. (2017). 3D printing: Printing precision and application in food sector. Trends in Food Science & Technology, 69, 83–94. https://doi.org/10.1016/j.tifs.2017.08.018
8.Ministry of Health, British Columbia. (2009). MEALS AND MORE: A Foods and Nutrition Manual for Homes of Adults and Children with 24 Persons or Fewer in Care. Retrieved 23 October 2022, from https://www2.gov.bc.ca/assets/gov/health/accessing-health-care/finding-assisted-living-residential-care-facilities/residential-care-facilities/meals_and_more_manual.pdf
9.Pallottino, F., Hakola, L., Costa, C., Antonucci, F., Figorilli, S., Seisto, A., & Menesatti, P. (2016). Printing on Food or Food Printing: a Review. Food and Bioprocess Technology, 9(5), 725–733. https://doi.org/10.1007/s11947-016-1692-3
10.Severini, C., Derossi, A., Ricci, I., Caporizzi, R., & Fiore, A. (2018). Printing a blend of fruit and vegetables. New advances on critical variables and shelf life of 3D edible objects. Journal of Food Engineering, 220, 89–100. https://doi.org/10.1016/j.jfoodeng.2017.08.025
11.Sun, J., Peng, Z., Yan, L., Fuh, J., & Hong, G. S. (2015). 3D food printing—An innovative way of mass customization in food fabrication. International Journal of Bioprinting, 1(1), 27–38. https://doi.org/10.18063/ijb.2015.01.006
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13.Tan, C., Toh, W. Y., Wong, G., & Lin, L. (2018). Extrusion-based 3D food printing – Materials and machines. International Journal of Bioprinting, 4(2). https://doi.org/10.18063/ijb.v4i2.143
14.Teng, X., Zhang, M., & Mujumdar, A. S. (2021). 4D printing: Recent advances and proposals in the food sector. Trends in Food Science &Amp; Technology, 110, 349–363. https://doi.org/10.1016/j.tifs.2021.01.076
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