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糖質低減技術
良い食品が健康的なライフスタイルの重要な要素であることは否定できません。意識的な消費行動が増えるとともに、食品や飲料の糖質低減に対する要求も高まっています。ある研究では、清涼飲料水、加糖果汁、エナジードリンクなどの甘い飲み物が、心血管疾患や肥満、代謝障害など、食事に関連するほとんどの病気の原因であることが明らかになりました(3)。そこで、食品メーカーは糖質低減技術で糖度を減らすことに力を注いでいるのです。今回のブログでは、グリセミック指数とその重要性、糖質低減技術の紹介、代替甘味料としての酵素技術の活用、天然甘味料の苦味低減のためのReb Mについて考察していきます。
グリセミック指数(GI)とその重要性
まず、グリセミック指数という概念を理解する必要があります。前回こちらで考察したように、グリセミック指数とは、標準的な食品からの糖質吸収速度に対する血糖値反応を数値で分類したものです (7) 。つまり、グリセミック指数が高い食品は、血糖値の変動が大きいため、食事性疾患の発症に有利となるのです(12)。ですから、グリセミック指数が低い食品は、私たちの体にとって良いものということになります。
糖質低減技術とは?
それは、酵素の技術を使って、糖分を根本から減らし、テンサイ由来の低グリセミック指数(GI)の炭水化物に置き換える技術です(11)。 植物由来の甘味料の使用や、糖質(果糖、ブドウ糖、ショ糖)をプレバイオティクス食物繊維に変換することで、絶妙な甘さと後味の良さを実現し、食品業界のトレンドを牽引してきました(1)。
1.代替甘味料としての酵素技術の活用
1.1果実の天然糖分を果汁用食物繊維に還元
健康志向の消費者がオレンジジュースなど糖度の高いジュースを避けているのは、そうした甘さが、2型糖尿病や肥満など様々な健康問題を引き起こす可能性があるからです(2)。そこで、プロセス工学とフードテック企業は、非遺伝子組み換え微生物を開発し、プロセスに適用、ジュースの食感やビタミン組成に影響を与えることなく、微生物内の酵素が、糖を栄養価の高い食物繊維に変換できるようにしました。この方法により、糖分を20~80%低減できる可能性があるため、健康志向の消費者にとっては望ましいことです。また、このプロセスは完全オートメーション化され、クリーンインプレイス(CIP)が採用されているためコンタミネーションもないので、衛生面でも優れています(6)。
そのプロセスは単純で、固定化微生物の酵素が、ショ糖を食物繊維に、グルコースをグルコン酸に、果糖をソルビトールに変換します(2)。つまり、食感や甘み、製品特性はそのままに、糖度を下げることができるのです(2)。さらに、カプセル化技術を酵素に応用して、加工時の耐久性も高めています(4)。
1.2 乳製品の糖分低減と食物繊維の増加
消費者の低糖質志向は乳製品業界においても同様で、低糖質ヨーグルトや無乳糖牛乳など新しい種類の製品が発売されています。デュポン・ニュートリション&バイオサイエンス社のチームは、牛乳中の乳糖を有益な難消化性繊維に変換する乳糖変換酵素Nuricaを開発、糖分を減らし、人体の乳糖を消化できないことに起因する消化障害である乳糖不耐症(9)の程度を軽減することに成功しました(10)。
消費者の間では、食物繊維がいかに健康的で、血糖値のバランス、消化促進、コレステロールの低下、心血管疾患との関連があるかという認識が高まり、糖分の少ない飲料とは別に、食物繊維を多く含んだ乳製品がより購入されやする傾向にあります(5)。
2.ステビアによる天然甘味料の苦味低減 (8, 13)
人工甘味料の多くは、Reb Aやステビオールのように苦味や後味の悪さがあるため、満足のいく甘さを提供できていませんでしたが、ステビオール配糖体のレバウジオシドM(通称Reb M)は、苦味がなく、砂糖の200~350倍の甘さとゼロカロリーを実現し、あらゆる飲料への応用が可能です。また、ステビア由来であることからGRAS(一般に安全と認められる)にも認定されており、近年の健康志向の高まりとともに食品業界にも大きなメリットをもたらしています。Reb Mは、最も砂糖に近い甘さを持ち、後味も苦くないことから、食品産業での利用とともに、糖質低減製品への貢献も期待されています。しかし、自然界に存在する濃度は極めて低く、どこにでもあるわけではないので、豊富に存在し、苦味の少ないReb Aと比較すると高価で、まだ市場には適していません。
糖質低減技術は、消費者の健康と幸福に貢献するものです。健康で丈夫な体を維持することは誰にとっても好ましいことです。ですから、メーカーは、従来の技術ではすべての条件を満たすことができなかった、製品の糖度の重要性を、市場投入前に検討することが重要です。消費者のニーズを満たすには、フードイノベーションが鍵となると言えます。
参考文献
1.Arthur, R. (2021). Shaking up sugar reduction: New tech for beverages. beveragedaily.com. Retrieved February 21, 2023, from https://www.beveragedaily.com/Article/2021/01/29/Innovations-set-to-shake-up-beverage-sugar-reduction
2.Berry, D. (2022). Fruit seen as source of alternative sweetener innovation. Baking Business. Retrieved February 27, 2023, from https://www.bakingbusiness.com/articles/57514-fruit-seen-as-source-of-alternative-sweetener-innovation
3.Brown, C. M., Dulloo, A. G., & Montani, J. P. (2008). Sugary drinks in the pathogenesis of obesity and cardiovascular diseases. International Journal of Obesity, 32(S6), S28–S34. https://doi.org/10.1038/ijo.2008.204
4.Brownell, L. (2022). Kraft Heinz partners with Wyss Institute to make sugar healthier. Wyss Institute. Retrieved February 27, 2023, from https://wyss.harvard.edu/news/kraft-heinz-partners-with-wyss-institute-to-make-sugar-healthier/
5.Devenyns, J. (2020). Novozymes’ enzyme cuts sugar and boosts fiber content in dairy products. Retrieved February 27, 2023, from https://www.fooddive.com/news/novozymes-enzyme-cuts-sugar-and-boosts-fiber-content-in-dairy-products/574689/
6.(2021). Fresh juice production with enzymatic sugar-reduction process. Food and Beverage Technology | Industrial Meeting. Retrieved February 24, 2023, from https://www.industrialmeeting.club/fresh-juice-production-with-enzymatic-sugar-reduction-process/
7.Jenkins, D. J. A., Kendall, C. W. C., Augustin, L. S. A., Franceschi, S., Hamidi, M., Marchie, A., Jenkins, A. L., & Axelsen, M. (2002). Glycemic index: overview of implications in health and disease. The American Journal of Clinical Nutrition, 76(1), 266S-273S. https://doi.org/10.1093/ajcn/76.1.266s
8.Lyubomirova, T. (2022). Zero sugar without compromise: How Reb M can offer a path to tasty sugar-free formulations. Retrieved February 27, 2023, from https://www.dairyreporter.com/Article/2022/10/19/Zero-sugar-without-compromise-How-Reb-M-can-offer-a-path-to-tasty-sugar-free-formulations
9.Manning, L. (2019). DuPont introduces lactose-free enzyme ingredient to lower sugar content in dairy products. Retrieved February 27, 2023, from https://agfundernews.com/dupont-introduces-lactose-free-enzyme-ingredient-to-lower-sugar-content-in-dairy-products
10.(2010). Lactose intolerance: MedlinePlus Genetics. Retrieved February 27, 2023, from https://medlineplus.gov/genetics/condition/lactose-intolerance/
11.Reilly, M. K. (2022). ‘Healthier’ permissible indulgence finds favor. Food Beverage Insider. Retrieved February 21, 2023, from https://www.foodbeverageinsider.com/sugar-reduction/healthier-permissible-indulgence-finds-favor
12.The University of Sydney. (2023). About – Glycemic Index. Retrieved February 21, 2023, from https://glycemicindex.com/about-gi/
13.Wills, B. (2022). Reb M sweetens the appeal of stevia. Natural Products INSIDER. Retrieved February 27, 2023, from https://www.naturalproductsinsider.com/sweeteners/reb-m-sweetens-appeal-stevia
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