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Oct 02 2023

フードアートの世界におけるフードサイエンス(パート1)

食品科学の知識は、新しい料理を産み出すためにどのように活用できるでしょうか?

            フードアート(Food gastronomy)は現在、科学技術の知識を活かし、様々な新しい調理技術を生み出す基礎となっています。分子ガストロノミー(Molecular gastronomy)と呼ばれ、消費者に新たな感動体験を提供するための見た目、食感、風味の変化などが挙げられます。

            本日は、分子ガストロノミーの新しい技術のいくつかの例をご紹介します。さらに、これらのテクニックの背景にある科学技術についてもご紹介します。

            •真空調理法(Sous vide)

            真空調理法(Sous vide)とは、真空パックに入った食材を通常よりも低い温度で調理する技術です。食品科学の基礎知識を活用しています。真空中で食品を制御して求める特性を持たせることができます。酸化反応を受けないなどのさまざまな理由により、異臭の発生を軽減し、食品中の水分や揮発性物質の蒸発の抑止や、増殖に空気を必要とする微生物の成長を抑止します。これにより、通常の気圧環境[1]でも、低い温度で病原性微生物を死滅させることが可能になります。さらに、温度は食品の品質に影響を与え、風味やテクスチャー、熱に弱い機能性物質の損失など、望ましくない場合があります。低い温度を使用することで、これらの変化を抑えます。ただし、使用時には微生物の働きを助ける温度範囲を避けるための温度管理の知識が必要です。

            •球状化(Spherification)

            球状化(Spherification)、またはゲル膜に包まれた液体が入っているゲルボールの生成は、カルシウムに触れるとゲルを形成し、液体をゲルの中にカプセル化するというアルギン酸塩化合物の特性に関する知識を利用します。液体保持を可能にし(encapsulation)、人工魚卵、果汁のジェル(juice caviar)、サラダドレッシングジェルや各種ソース、アルコール飲料ジェルなど、消費者に新しい感覚を与えます。また、ゴミにならない飲料水などのパッケージの素材などとして利用されています。現在では、球状化(Spherification)技術と3D 印刷を組み合わせて、星形や四角形、文字などの丸球以外の新たなデザインや、複雑な色のデザインなど、液体貯蔵ゲルをデザインする開発・改良がなされています[2]。

            •超音波(Ultrasound wave)

            超音波は高周波の音波で、人間には聞こえません。しかし、超音波は、風味の抽出を助けたり、液体内に微細な気泡を生成したり(食品内のマイクロバブル:パート 1パート2で詳細を確認) 、ナノエマルジョンなどで成分を分散させて混合するのに役立つなど[3]、食品の性質を変えるのに役立つ振動を提供します。

            •急速冷凍(Flash freezing)

            液体窒素を用いての食品の急速冷凍は、大きな氷​​の結晶を形成せずに食品の温度を素早く下げるために利用されます。非常に低い温度の液体窒素からの熱伝導の原理により、 熱伝達率が速いため、不安定な構造を持つ固形食品を作ることができます。例えば、泡・気泡の構造、水層と油層の分離の防止、食品が冷めるまでに必要な調理時間を短縮できます。このほかに、ペレットアイスクリーム(pellet)などの新しい形状の食品は、液体窒素に牛乳や果汁をほんの少し滴らせることで作られますが、この際、液体窒素は健康への影響はなく、すぐに蒸発して気体になります。ただし、液体窒素を食品に混ぜる場合は注意が必要です。食品の粘度によって液体窒素が残留し、ゆっくりと揮発することで、口腔に危険をもたらす可能性があります。さらに、液体窒素の密度が高いことから起こる低酸素症を防ぐため、屋外または換気の良い場所で使用する必要があります。

            •発泡・エスプーマ・炭酸化(Foaming, Espuma & carbonation)

            高圧ガスを用いて食品にガスを充填することは、例えば炭酸ガスを使って清涼飲料水や炭酸飲料を作るなど、食べ物に新たな食感を加える技術です。あるいは、炭酸フルーツ片など、ソーダのような食感を持つ炭酸固形食品を作ることもできます。 これは、圧力によってガスの溶解を増加させるという知識を利用します。同じ原理を使えば、気泡をしっかり保持できる添加剤を加え、粘性のある液体に気泡を加えることで、泡やムース(よく知られる例は、ホイップクリームやムースケーキ)、果汁のクリーム、ソース、更にはクリームスープのような液体のタンパク質のような食べ物の食感を作り出すことができます。これにより、軽い食感と飲み込みやすい粘度が生まれます。現在、この技術は、食べ物を噛んだり飲み込んだりするのが困難な高齢者[4]など、特定のニーズを持つ人々向けの食品の食感のデザインを支援するために使用されています。

            ここでは、食品科学技術が料理の創造性と組み合わされることで、消費者にとって興味深い新しいメニューを生み出す例をいくつか紹介しました。常に新しい知識や技術の研究と並行して発展してきた科学技術の目標とは、消費者が実際に使える製品をデザインすることです。上述したテクニックに加え、他にも興味深いテクニックがたくさんあります。次回、機会があれば、さらに皆様にご紹介させていただきます。 ITOタイランドのFacebookページとブログをぜひご覧ください。

References

1.Baldwin, D. E. (2012). Sous vide cooking: A review. International Journal of Gastronomy and Food Science1(1), 15-30.

2.D’Angelo, G., Hansen, H. N., & Hart, A. J. (2016). Molecular gastronomy meets 3D printing: Layered construction via reverse spherification. 3D Printing and Additive Manufacturing3(3), 152-159.

3.Sivakumaran, K., & Prabodhani, W. D. M. H. (2018). An overview of the applications molecular gastronomy in food industry. International Journal of Food Science and Nutrition3(3), 35-40.

4.Koizumi, A., Koizumi, A., & Mineki, M. (2023). Preparation and suitability of espuma fish dishes for older adults. Food Science and Technology Research29(3), 247-256.

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