ITO Thailand Hygiene Blog
新しい食糧源の安全問題
新しい食糧源がトレンドになっています。植物性タンパク質、昆虫タンパク質やその他の供給源について、注意すべき安全上の問題には何があるでしょうか?
現在、環境、持続可能性、カーボンフットプリント削減のトレンドが来ており、注目度も高まっています。その 1 つは、人間にとってより持続可能で、食糧生産において、水・土地・飼料などの生産資源の使用が削減でき、更に様々な工程で温室効果ガスの排出を削減できる新しい食糧源を見つけることです。この他に、栄養価の高い食品の開発も含まれ、その一部は、食物アレルギーのある人にとっての代替品となりえます。
この食品グループのうち、いくつかについてはすでに述べました。昆虫由来の代替タンパク質、プラントベースの食品(植物タンパク質)、培養肉のタンパク質 クラゲや海藻などの海からの食糧源などです。 (ITOタイランドのブログの、各トピックのリンクから詳細を読むことができます)
ただし、安全性と健康への影響は、これらの新しい食糧源を開発する際に考慮すべき重要な問題の 1 つであり、現代社会では食品の安全性への取り組みが行われています。新しい食糧源の安全性の問題に関しては、USFDA (2022) が報告書「Thinking about the future of food safety: A foresight report [1]」の一部として取り上げており、今回はこの報告書の興味深い部分を要約したいと思います。
•昆虫食
昆虫食は良質なタンパク質源で、いくつかのミネラルも含みます。そして、現在の伝統的な畜産よりも環境に優しいです。しかし、危険な部分もあります。昆虫の種類、昆虫の餌、自然から捕獲されたか農場で飼育されたか、昆虫の腸内の微生物、更には保管と輸送まで考慮する必要があります。直面しうる危険の例としては、昆虫特有の病原性微生物、不適切な管理による昆虫の餌の汚染、殺虫剤やその他の化学物質による昆虫内の汚染、一部の昆虫のタンパク質によって引き起こされるアレルギー、甲殻類(crustaceans)タンパク質に対するアレルギーにも同じことが当てはまり、さらなる研究が必要な可能性があります。
•クラゲ食
クラゲ食は低カロリーでコラーゲンが豊富ですが、一部のクラゲは有毒です。したがって、食べるのに適したクラゲについて、十分な品種研究が必要です。他の海洋動物と同様の病原性微生物による汚染や、海洋汚染による重金属汚染、クラゲの表面についた藻類毒素(Algal toxin)やアレルギー成分などの化学的危険性があります。この他に、クラゲの食品製造プロセスからのリスクの可能性があります。食品を保存するためにミョウバン(alum)を使用することで、アルミニウム汚染が安全閾値を超える原因となります。物理的リスクの観点からは、クラゲを含むさまざまな海洋生物が大型プラスチックからマイクロ、ナノプラスチックに至るプラスチックを食べている可能性があるとの報告があり、食品へのプラスチック汚染の問題を引き起こす可能性があります。
•プラントベース・植物由来の食糧
プラントベース・植物由来の食糧は人気が高まりはじめています。環境へ優しいこと、温室効果ガスの排出を削減すること、栄養価に優れていること、健康上の理由など、様々な立場にとって良い選択肢となります。ただし、プラントベース食を主食にする際には、アミノ酸の種類や必須ミネラル、加工食品に含まれる塩分の量などの適切な栄養価を考慮する必要があります。汚染問題に関しては、土壌、肥料、水からの微生物汚染、湿度の高い野菜での微生物の増殖など、植物由来の原材料を使用した従来の食と比較的似ています。例えば、真菌毒(mycotoxin)、殺虫剤、マメ科植物に含まれる他の栄養素の吸収を妨げる可能性がある反栄養素(antinutrients)などがあります。特に大豆やピーナッツに含まれるアレルゲン、肉を模倣するための香料(soy leghemoblobinなど)は、食べ過ぎによる健康への影響についてさらなる研究が必要かもしれません。
•海藻食
海藻食は持続可能で用途は多岐に渡ります。栄養源(ビタミン、ミネラル、良質な脂肪酸など)として食べられるものから、食品の品質向上を助ける添加物として使われます。更には、藻類由来のアルギン酸塩物質や、アガー(Agar)などからジェルボールなどの新しい食品を創造します(詳細はFood gastronomyの記事を参照)。しかし、海藻由来の食品については注意しなければいけません。最初の問題は、微生物がシアノバクテリア毒素を産み出すことで引き起こされたフィコトキシン(Phycotoxin)と、海藻の汚染、病原性微生物汚染、海洋汚染による重金属 (他の魚介類と同様)、ヨウ素と硝酸塩の含有量が非常に高いことにより過剰に摂取すると健康上の問題を引き起こす可能性があります。藻類タンパク質のアレルギーの問題については、この分野に関する研究はまだ比較的少ないです。
•培養肉
培養肉は、農場や家畜が環境に与える影響を軽減しようとする新しい技術を用いたタンパク質です。安全上の考慮事項については、培養前駆細胞の源や、細胞培養に使用される物質の成分、生産プロセスのあらゆる段階を管理することまで考慮する必要があります。現在、この分野で管理されるべき規制について、まだ具体的な発表はなく、ケースバイケースで検討されます。
まとめますと、衛生管理がしっかりしていることが、常に食品の安全性の中心です。 追加部分としては、新しい食糧源に含まれる物質が健康に及ぼす影響を研究することかもしれません。安全性を考慮すべき新しい食糧源に加えて、新しい生産プロセスにも、安全性への配慮と特定の管理規制も必要です。たとえば、現時点で食品への放射線照射は、USFDAによって食品添加物の1つであると考えられており興味深いです。機会があれば今後紹介するかもしれません。
Reference
1.2022. Thinking about the future of food safety: A foresight report [online: https://www.fao.org/3/cb8667en/cb8667en.pdf]
2.2018. Overview of Irradiation of Food and Packaging [online: https://www.fda.gov/food/irradiation-food-packaging/overview-irradiation-food-and-packaging]
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